
2026年7月25日(土)、兵庫県立芸術文化センター 神戸女学院ショーホールにて、青柳いづみこ先生と辰野翼さんによる連弾コンサートを聴いてまいりました。
タイトルは「春の祭典」。テーマは「ニジンスキーとロシア・バレエ団」。
いずみこ先生の楽しい語りを交えながら、20世紀初頭にヨーロッパを揺るがしたロシア・バレエ団と、
その舞台に立った振付家ニジンスキーの世界を、ピアノの音でたどっていく構成でした。
第1部前半 辰野翼さんソロ 〜ショパンと「レ・シルフィード」〜
まず辰野翼さんのソロで、ショパンの
- ノクターン第10番 変イ長調 Op.32-2
- ワルツ第1番 変ホ長調 Op.18(華麗なる大円舞曲)
- ワルツ第7番 嬰ハ短調 Op.64-2
が演奏されました。
これらはロシア・バレエ団によって1909年に初演されたバレエ「レ・シルフィード」で用いられた曲だそうです。
ショパンの音楽に乗せて、白い精霊たちが月光の下で幻想的に舞う——クラシックバレエを代表する名作として今も愛されている名曲です。
ロマンティック・バレエの舞台で、どう踊られたのか、とても興味が湧きました。
その音楽を辰野さんの端正な音色で聴くところから、今日の旅は始まりました。
第1部後半 ドビュッシー 〜ニジンスキーが巻き起こしたスキャンダル〜
続いて、ドビュッシー作曲・高橋悠治編曲による連弾版で
- 「牧神の午後への前奏曲」
- 「遊戯」
が演奏されました。
「牧神の午後への前奏曲」は、ニジンスキー自身が振付を手がけ、ロシア・バレエ団が1912年に踊った作品。
それまでのバレエにはなかった平面的で異様な身振りが、当時の観客に大きな衝撃を与え、スキャンダルを巻き起こしたといいます。
「遊戯」も同じくニジンスキーが振付・主演した作品で、テニスに興じる男女三人の恋のもつれを描いた物語仕立てでありながら、実はロシア・バレエ団の主宰者ディアギレフをめぐる関係性の隠喩を含んでいた、というエピソードがプログラムの解説にありました。
優美な旋律の裏に潜む、当時としては大胆な仕掛け——そんな背景を知ってから聴くと、曲の印象がまた違って聴こえてくるから不思議です。
フランスという共通の背景があるお二人の演奏から聴くドビュッシーは、格別。
第2部 ストラヴィンスキー「春の祭典」〜地鳴りのような支えと、華やぐ祭典の音〜
そして後半は、いよいよストラヴィンスキーの「春の祭典」。
これは本当にダイナミックで、壮大な連弾曲でした。大きな絵巻物を眺めているような、スペクタクルに満ちた物語を感じる演奏。
辰野さんのセコンドが、深く力強いエネルギーで地鳴りのような響きを支え続け、その土台の上で青柳先生のプリモが華やかに躍動する——まさに「祭典」の名にふさわしい、緑萌える生命力に満ちた演奏でした。
第1部・第2部を休みなく弾き通されましたが、聴いているこちらもその世界に引き込まれたまま、最後まで夢中で楽しむことができました。
この「春の祭典」もまた、あまりに斬新であったために、1913年の初演では観客が野次を飛ばしたり、席を立って騒いだりして、音楽がほとんど聞こえない状態になったと伝えられています。
古い形式を打ち破り、新しい時代へと踏み出していく——その渦のような熱量を、今日の演奏からも確かに感じ取ることができました。
アンコール 〜サティ「ジュ・トゥ・ヴ」、スイングにのせて〜
これほどの大曲を、休みなく弾き通されるだけでも大変なことと思うのですが、お二人はにこやかにアンコールへ。
最初のアンコール曲は、ストラヴィンスキーの3つの小品。
春の祭典のような大曲から、一変してお部屋で楽しめるような作品を紹介してくださって、身近な親しみがわきました。
サティの「ジュ・トゥ・ヴ」がスイング編曲で演奏され、これがまた実に華やかで洒落た仕上がり。
フランス愛あふれるお二人の息のあった演奏をこころから楽しみました。
緊張のあとにふっと肩の力が抜けるような、素敵な締めくくりでした。
おわりに
聴かせて楽しませてくれる演奏でありながら、20世紀初頭という時代のうねり——古いものが壊され、新しいものが生まれていく、その熱気までも伝えてくれる、忘れがたいコンサートでした。
ニジンスキーという一人の振付家の視点を通して、ショパン、ドビュッシー、ストラヴィンスキーという時代の異なる音楽をひとつの物語につなげてしまう構成力にも、深く感銘を受けました。



青柳いづみこ先生の本

辰野翼さんのCD

来年も楽しみにしています。
神戸北町のしばたピアノ教室 柴田 幸代





