―― チューニングに隠された歴史と理由
コンサートが始まる直前。
指揮者が登場する前、舞台上で楽器の音が一斉に鳴り響く、あの時間。
「これから音楽が始まる…!」
そんなワクワクを感じさせてくれる、オーケストラのチューニング。
けれど、ふと疑問に思ったことはありませんか?
- なぜ、みんな同じ音を出すの?
- なぜ“ラ(A)”なの?
- どうしてオーボエが音を出すの?
実は私自身も、長年なんとなく不思議に思っていました。
そんな疑問を、とても分かりやすく解きほぐしてくれたのが、
YouTubeチャンネル「クラン」さんの解説動画でした。
今回は、その内容をもとに
オーケストラのチューニングの秘密を、少し深掘りしてみたいと思います。
コンサート前のチューニングとは?
演奏前に行われる全体チューニングは、
単なる「音合わせ」ではありません。
これから始まる音楽への期待感を高め、
オーケストラ全体の集中力を一気に高める、大切な儀式でもあります。
そして同時に、
「この空間、この瞬間に最適な音程」を
全員で共有するための、最後の確認作業
でもあるのです。
なぜ舞台の上でチューニングするの?
「楽屋でやっておけばいいのでは?」
そう思いますよね。
ところが、楽器はとても環境に敏感。
特に弦楽器や木管楽器は、
温度・湿度・人の気配によって、音程が微妙に変わってしまいます。
- 客席に観客が入る
- 照明が当たる
- 空調が動く
こうした変化が起こるのは、まさに本番直前の舞台上。
だからこそ、
「今このホールの環境で」
最終調整をする必要があるのです。
なぜオーボエが基準音を出すの?
チューニングの合図を出すのはコンサートマスター。
そして、実際に基準音を長く伸ばすのがオーボエです。
その理由は、とても合理的。

- 弦楽器:湿度の影響を受けやすく、基準音には不向き
- 金管楽器:息の強さで音程が変わりやすく、長く安定して音を出しにくい
- ファゴット:音が低く、全体に伝わりにくい
- フルート:音が拡散しやすい
- クラリネット:実は優秀。でも歴史的にオーボエの方が先に定着した
その点、オーボエは
- 音程が安定している
- 音がまっすぐ飛ぶ
- 大人数の中でも埋もれにくい
まさに基準音にぴったりの楽器なのです。
ピアノがあるときは例外?
ピアノ協奏曲など、ピアノが入る演奏会では、
オーボエではなくピアノの音程に全体が合わせます。

ピアノは
88鍵すべてを事前に調律しておく必要があり、
本番直前に「ちょっと直す」ということが現実的ではありません。
そのため、
「動かせないピアノ」に
オーケストラが合わせる
という形になるのです。
なぜ「ド」ではなく「A(ラ)」なの?
これも、よく聞かれる疑問です。
① 楽器構造の理由
ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス。
すべての弦楽器にA(ラ)の開放弦があります。
指で押さえず、自然に鳴らせる音は
最も安定し、狂いが少ない。
ラは、基準音として理想的なのです。

② 数学的・物理的な理由
現在の国際基準は
A4 = 440Hz。
この周波数は倍音関係が非常に美しく、
他の音との比率も計算しやすい。
音楽と数学が、
とてもきれいに結びついているポイントでもあります。
ピッチは昔から440Hzだったの?
実は、違います。
A=440Hzが国際基準として定められたのは、
1939年のロンドン国際会議。
意外と最近のことなのです。
- バッハの時代:A=415Hz 前後
- モーツァルトの時代:A=430Hz 前後
今より、半音近く低い音程で演奏されていました。
19世紀ロマン派以降、
より華やかで明るい音を求めて、ピッチはどんどん上昇。
その結果、
「これ以上高くなると歌えない!」
と声を上げたのが、歌手たちと数々の名曲オペラを残した作曲家ヴェルディ。
こうした“ピッチ戦争”の末に、
ようやく落ち着いたのが A=440Hz なのです。
チューニングの順番は決まっているの?
一般的には、
- オーボエ
- 木管楽器
- 金管楽器
- 全体の再確認
- 弦楽器
という流れが多いですが、
実はこれも楽団や指揮者によってさまざま。
低音楽器から合わせる団体もあれば、
独自のルールを持つオーケストラもあります。
まとめ|チューニングに込められた意味
✔️ チューニングは、環境変化に対応するため舞台上で行われる
✔️ オーボエは、音程の安定性と音の通りやすさで選ばれている
✔️ 「A(ラ)」は、弦楽器の構造と数学的美しさを兼ね備えた音
✔️ A=440Hzは、長い歴史と議論の末に定められた国際基準
何気なく耳にしていた、あの「ラ〜」という音。
その裏側には、
音楽家たちの知恵と歴史が、静かに息づいているのですね。
オーケストラの演奏を聴きに行ったら、チューニングの風景も楽しんでみてください。
もとのYouTubeチャンネルは↓
お読みいただきありがとうございました。
神戸北町のしばたピアノ教室 柴田 幸代





