シネリーブル神戸。メッセージ性の強い作品を上映する映画館。神戸元町の朝日会館の地下にあります。
本日は、『Ryuichi Sakamoto Opus』を観てきました。(ネタバレありますのでご注意ください。)
この映画の来場者全員にポストカードのプレゼント
ピアノレッスンがオフの日だったので、朝からネット予約で座席も指定してチケットを取り、出かけました。
上映時間は、13:25の1回のみ。お昼からゆっくり出かけても間に合う楽な時間帯です。
開場して入る前に、プレゼントのポストカードが配られました。思いがけず嬉しかったです。
坂本龍一がただただ、ピアノを演奏してくれる
前もってこの映画のことを調べず、いきなり観たのですが、坂本龍一がただピアノに向かって次々と作品を弾いてくれます。
一言のインタビューも、言葉のメッセージもなく、ずっとモノクロームの映像でピアノに向かう坂本龍一。
あとで調べたら全部で20曲あったそうなので、103分間、20曲をぶっ通しで聴くコンサートの映像、ということになります。
あらためて偉大で自在な作風の曲たち
紡ぎだされるピアノ曲は、あらゆる時代の作風がイメージできるバラエティに富んだ曲たちです。
コラールのようなゆったりと和声が流れる穏やかな曲、バッハのポリフォニーのように受け渡しに会話があって楽しい曲、久石譲のような和の美しい旋律を歌い上げる曲、サラバンドのように荘重ながらもエスプリが光る曲、印象派のフランス音楽のような調べ。
何か国語も話せる人のように、自在に国や時代を操る稀なる才能から生まれる音楽の中から、坂本龍一が立ち上がってくるのをどの曲からも感じることができました。
テイクの途中でふと止まって
完成されたテイクがつなぎ合わさって流れていく中で、ふと坂本龍一が手を止めて、あれこれコードを弾きなおす場面が挿入されています。ギシっと不穏な不協和音のコードにこだわって、これか?これか?と数回弾きなおす場面。そして指を立てて、「もう一回。」の合図。
人間である坂本龍一が感じられる瞬間でした。
洗濯ばさみを弦にはさんで
特に面白かったのは、坂本龍一が金属製の洗濯ばさみを数か所、ピアノの弦にはさんでいくところ。
当然、その弦の音は、ピッチが狂って、障害物に振動を邪魔されます。
そのまま演奏された曲は、教会の鐘のような音。
複数のカリヨンが鳴り響く風景。
たしかにヨーロッパで聴いた古い教会の鐘は、音程はあるもののピッチがちょっとくるっていて、同時にカランコロンと鳴るときは、変な雑音も入っていて、それが懐かしい味わいも醸し出しています。
洗濯ばさみは、そういう風景をまるごと再現してくれていました。なぜか、泣けました。
印象的な最後の2曲
最後から2曲目の「Happy End」という曲は、フランス音楽のような始まりでした。
とてもきれいなラヴェルみたいな曲だな、と思って聴いていたら、中間部から坂本龍一らしいメロディが立ち上がって音楽を歌い上げました。
コスモポリタンな人だけれど、彼はやっぱり日本人だな、とあらためて感じました。
そしてそれに続けて、『Merry Christmas Mr. Lawrence』のイントロが始まり、会場のみなさんが一気に涙腺崩壊。
彼を見送らなければいけない瞬間がきた。
そんな覚悟を観客のみなさんと共有している気がきました。
演出効果や技術の高さにも感動
あとで映画の撮影を語った制作者さんたちの記事を読みました。
病気で体力が衰えた坂本龍一は、コンサートで演奏をすることができないので、コンサートの映像で音楽を届けようとしたこと。モノクロームで、音楽がより伝わる演出をしたこと。
「日本で一番音がいい。」と坂本龍一が評価していたNHKの509スタジオで、8日間で撮影されたこと。
ピアノのいろんな部位に、コンデンサーマイクがこれでもか、とつけられていて、音響さんは、倍音のコントロールや、ほしい音程のミキシングをされたことと思います。倍音が素晴らしいと思ったところでは、暗黒の宇宙につながるような音色が広がって、坂本龍一がその狭間にいることを感じました。
そして最後は、YAMAHAのピアノにブラボー!
最後の曲を弾き終えて、去っていく靴音が響くスタジオにYAMAHAのピアノが残されている場面。
坂本龍一とともに数々の美しい作品を歌い終えたピアノが静かに佇んでいます。
そのピアノが、
自動演奏の機能で、
再び、坂本龍一が弾いた曲を奏で始めるのですよ~。
坂本龍一の魂が鳴らしているように。
思わず、「ブラボー。YAMAHA!!!」
と叫びたくなりました。
「わたしはあなたを忘れない。坂本龍一はここにいるよ。」
というピアノの声が聞こえました。
坂本龍一 2023年3月18日没。享年71歳。
日本が誇る素晴らしい作曲家。
ありがとうございました。
神戸北町のしばたピアノ教室 柴田 幸代