
満を持してスタートした、赤松林太郎先生による《ショパン全作品演奏シリーズ》の第一回。
そのタイトルは「愛の理想」。この日を待ちわびて、ワクワクしながらホールへ向かいました。
2025年5月30日(金)大阪府豊中市文化芸術センター小ホールにて。
■ プログラム
《ショパン全作品演奏シリーズ Vol.1》
前半
・ショパン:ラルゴ(編曲:ホ長調)
・3つの華麗なるワルツ Op.34
・アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ Op.22
休憩
後半
・シマノフスキ:クラコヴィアク
・ショパン:
バラード第3番 Op.47
2つのノクターン Op.48
スケルツォ第2番 Op.31
アンコール(すべてショパン):
・エチュード「革命」
・ノクターン「遺作」
・英雄ポロネーズ
・ワルツ イ短調(遺作)KK.IVb-11
■ 音楽が“祈り”となった前半
冒頭のラルゴは、まるで場を清める祈りのよう。
慈愛に満ちた音が会場を優しく包み込み、まさに「ショパンの魂が降りてくる」ような始まりでした。
続いて演奏された3つの華麗なるワルツ。
とくにショパン自身が愛したという第2番・第3番では、心が高揚し、自然と笑顔になってしまいます。
熱を帯びていく演奏の流れの中、前半は「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」で華やかに締めくくられました。
■ 後半は多彩な表情のショパン
後半の最初に登場したのは、シマノフスキの「クラコヴィアク」。
リズムの躍動感と民族的な色彩が溢れる一曲で、舞踊の足さばきまで見えるような鮮やかな演奏でした。
そして再びショパンへ。
物語を紡ぐように語られるバラード第3番。
続くノクターン第13番(Op.48-1)では、演奏から慟哭のような深い感情があふれ出し、痛みの向こうにある愛が確かに聴こえました。
息をのむような瞬間の連続に、心がヒリヒリと震えました。
スケルツォ第2番が終わった瞬間、会場は大きな喝采に包まれました。
■ アンコールという贈り物
なんとアンコールは4曲も。
革命のエチュード、そして遺作のノクターン。
この2曲を聴くと、どうしても「今も世界のどこかで戦火に苦しむ人々」が思い浮かびます。
ショパンの音楽に込められた祈りが、時を越えて今の私たちの心に届くのを感じました。
お客さまの拍手が鳴りやまず、赤松先生のサービス精神が光ります。
英雄ポロネーズでさらなる高揚感をもたらしたあと、最後には、学習者にも親しまれている遺作のワルツをそっとプレゼントのように演奏してくださいました。
■ 「愛の理想」へ向かう演奏

今回のプログラム冊子には、赤松先生ご自身が、リストにおいて卓越されたクリダ先生から薫陶を受けて築かれた若き日のキャリアから、時を経てなぜいまショパンへと向かうのか、その背景が綴られていました。
リストがショパンの伝記に記した言葉
—『その情熱と悲哀』—
このフレーズが、今の赤松先生の音楽の核心にあるように感じます。
素晴らしいテクニックと共に、ショパンの音楽に秘められた幾重にも折り重なる感情の層が見事に描き出された演奏会。
音楽とは技術以上に「生き様」なのだと感じさせられる、心打たれるひとときでした。

神戸北町のしばたピアノ教室 柴田 幸代